[ 泌尿器科 ]
病気のはなし
(2021年6月現在)
ホルミウムレーザー前立腺核出術について | |
前立腺肥大症の手術療法は長年にわたり経尿道的前立腺切除術(TUR-Pと略します)が標準的方法でした。これは尿道に入れた内視鏡で見ながら,電気メスで前立腺肥大組織を少しずつ削って行くものです。比較的小さな前立腺肥大症には安全で有効な方法ですが、大きな前立腺肥大症には、出血が多くなる・低ナトリウム血症を起こすことがあるなどの理由により行いにくいという欠点がありました。したがって大きな前立腺肥大症に対しては開腹手術が行われることもありました。 これに対して、ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP、ホーレップと略します)は、内視鏡で見ながらレーザーを使って前立腺肥大組織をかたまりとしてくり抜くという新しい方法です。膀胱へ落ちたかたまりは、特殊な装置で細かくして尿道から体外へ取り出します。この手術では出血が比較的少なく、かつ低ナトリウム血症を起こすことがないため、従来は開腹手術で行っていたような大きな前立腺肥大症に対しても、より安全に行うことができます。また、入院期間も短縮することができます。当院でも2010年にホルミウムレーザー装置を導入し、同年末からこの手術を行っています。
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1.尿路結石症 | |
夜中などに突然左右どちらかの下腹部や腰部に激痛が出現し,血尿を伴う,というのが代表的な尿管結石の症状です.腎結石では無症状のことも多いのですが,大きさや症状に応じて処置が必要になります.尿路結石はこの20年間ほどで治療法が最も劇的に変化した疾患の一つでしょう.現在では開腹手術を必要とする症例はまれであり,ほとんどのケースが体外衝撃波(ESWL)・内視鏡により治療されています. 1)体外衝撃波による結石破砕術(ESWL) 特殊な装置で発生させたエネルギー波(衝撃波)を体外から結石に当て,結石を細かく砕いて尿と一緒に自然に排出させる治療法です.皮膚を切開することはありません.最近ではこの方法が尿路結石の治療の主流です.ほとんどの場合麻酔は必要なく,痛み止めのみで治療できます.従って原則として入院する必要はなく,外来で治療できます.大きな合併症はほとんどありません. 健康保険が適用され,健康保険で決められた1回の治療費は,ESWLそのものは約20万円です.それに付随した薬品などの費用とともに,それぞれのかたの負担率(1割,3割など)に応じて自己負担していただきます.しかし,同じ結石に対しては,2回目以降の治療ではESWLの費用は頂けないことになっていますので,2回目からは自己負担はずっと少なくなります. 当院では1996年からESWLの装置を導入し,年間数百件の治療が行われています. 2)内視鏡による結石治療 上記のESWLで治療困難なケースでは内視鏡により治療が行われます.中−下部の尿管結石では経尿道的に,腎結石には経皮的(皮膚と腎臓に穴をあけて内視鏡を挿入する)に治療が行われます.腰椎麻酔や全身麻酔が必要となりますので,入院治療となります.当院では,主に経尿道的治療(腰椎麻酔)が年間数十件行われています. |
2.前立腺肥大症 | |
中年以上の男性では比較的頻度の高い疾患であり,前立腺が膀胱の出口で大きくなって尿の流れをさまたげ,尿が出にくい・尿の回数が多いなどの症状を起こします.癌とは違って良性の疾患ですが,放置すると,膀胱がぱんぱんになっても全く排尿できない(尿閉といいます)・腎臓の機能に悪影響が出るなどの障害の原因となることがあります.したがって,ある程度症状の強いケースには治療が必要となりますが,前立腺の大きさと症状の強さが必ずしも一致するとは限りません. 内服薬による治療は,膀胱の出口をゆるめて尿の通りを良くする薬(α1−ブロッカーといいます)が中心で,これに頻尿を改善する薬,生薬系の薬などを併用します.また,大きくなった前立腺を小さくする作用があると言われている薬も登場しており,一部の方には効果が期待できます. 薬による治療では効果が十分でない方,また上記の尿閉を起こした方などには,手術による治療が行われます.手術の方法は,1980年頃に開腹手術に代わって内視鏡による手術(経尿道的電気切除術;TUR−Pと略します)が登場し,それ以来長い間この「TUR−P」が標準的手術として行われて来ました.その間,「高温度治療(いわゆる温熱療法)」などいくつかの新しい治療法が紹介されましたが,TUR−Pに勝るものではありませんでした.しかし,2005年頃から同じ内視鏡手術でも「ホルミウム」というレーザーを用いて前立腺をくり抜く手術(「核出術」といいます)が行われるようになりました.この方法はTUR−Pに比較していくつかの点で優れており,しだいにTUR−Pにとって代わって前立腺肥大症に対する標準的手術となりつつあります.当院では2010年にこのホルミウムレーザー装置を導入して手術を行っています. 詳しくは「ホルミウムレーザー前立腺核出術について」をご覧ください |
3.尿路性器癌 | |
1)腎臓癌 腎臓の中でも尿が作られる場所の“尿細管”の細胞から発生します.腫瘍が大きくなるまで症状が現れにくく,最近では無症状のうちに超音波やCT検査で偶然発見されることがほとんどです.従って小さな腫瘍(いわゆる初期)のことが多く,近年では手術の侵襲を小さくする努力がなされています.当院では,腫瘍の状態に応じて?悪い部分のみを切除する部分切除,?片側の腎臓全体を切除する腎摘除術(腹腔鏡または開腹)が行われています. 2)尿路上皮癌(腎盂癌,尿管癌,膀胱癌) 作られた尿を集め,運ぶ経路から発生する腫瘍です.突然の血尿で発症することが多く,中年以上の方の,痛みを伴わない肉眼的血尿(目で見て尿が赤い)は要注意です.病状に応じて,内視鏡による治療や開腹による手術が行われます.膀胱を全部摘出する場合は尿の道を作りかえる必要があります(尿路変更)が,これにも尿をお腹から出したり元の尿道から出るようにするなど,いくつかの方法があります. 3)前立腺癌 近年著しく増加する傾向のある病気です.尿が出にくい・尿の回数が多いなど,前立腺肥大症と同じような症状の出る可能性がありますが,自覚症状のない初期の段階でも,血液の中のPSA(前立腺特異抗原)というマーカーの値を調べることによりある程度診断が可能です. 治療は病状に応じて手術療法・放射線療法・ホルモン療法やそれらの組み合わせが選択されます.そして,それぞれの治療法には長所・短所があります.治療の選択肢が比較的多いので,ドクターと患者さん・ご家族との間で十分に話し合った上で治療法が決定されます. |
4.尿失禁 | |
報告によっては成人女性の50%以上に何らかの尿もれを認めるといわれています.もちろん治療の対象となるケースはそれよりも少ないのですが,多くの女性が尿もれに悩んでおられることは確かです.尿もれのタイプにはいくつかあり,それぞれのタイプにより治療法が異なります.内服薬が有効な場合もあれば手術療法が有効な場合もあり,また内服薬でも全く作用の異なる薬剤が有効のことがあります.従って,失禁のタイプや程度を正しく判定することが非常に重要であり,いくつかの検査を行った上で治療方針が決定されます.腹圧性尿失禁に対する手術療法では,“TVT”という新しい方法が安定した成績を示しており,当院でも施行されています. |
5.膀胱機能障害 | |
脊髄損傷,脳血管障害,糖尿病,骨盤内手術など,膀胱を動かす自律神経の異常を引き起こす病気は数多くあります.そして,これらの方々の排尿の管理がうまくできているかどうかは生活の質に大きく影響します.排尿のコントロールには,内服薬の使用・間歇的自己導尿・尿道留置カテーテルなど,多くの方法がありますが,個々のケースの状況に応じた排尿管理が必要となります.当院では患者さんの病状や環境・ご家族のご都合などを十分考慮し,最適な排尿管理ができるよう努力しています. |
6.男性不妊症 | |
子供が欲しくても子供のできないカップルの2分の1は男性に原因があるといわれています.精液検査で精子の数が少ない,精子がいない,運動率が低いなどの異常を認めるケースのうち,大部分は原因不明(いわゆる特発性)でありこれらは根本的な治療が困難です.しかし,手術による改善が期待できる場合もあります.それは,精巣(睾丸)の近くの静脈が拡張し血液が停滞する“精索静脈瘤”と,精子の通り道がつまる“閉塞性無精子症”です.これらに対して手術を行い,精液所見が改善したり自然妊娠が可能となる場合があります.当院では男性不妊症の方々にも適切な検査・治療を提供しています. |
7.PSA(前立腺特異抗原)による前立腺がん検診について | |
血液中のPSAを測定することにより,前立腺がんを発見する助けとすることができます。 2. PSA検査を受けることにより被る不利益 (出典:日本泌尿器科学会編 前立腺がん検診ガイドライン 2008年版) |
8.女性の骨盤臓器脱(性器脱)について | |
1)骨盤臓器脱とは: 女性の膀胱や子宮が膣内を下降して膣の外に出て来る状態の総称ですが、膣に隣接した様々な臓器が膣壁をかぶって突出して来ます。脱出して来る臓器に応じて子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤などがあります。骨盤の底を支える組織(筋膜、筋肉、結合組織など)が弱くなって弛緩することにより起こります。
外陰部に何かがある感じ(違和感や下垂感)を始め、子宮を支える組織が牽引されることによる下腹部痛や腰痛、脱出した組織が炎症を起こすことによる出血などが主なものです。また膀胱の動きが制限されることにより、尿が出にくい、尿の回数が多い、尿が漏れるなど、排尿に関連する症状を伴うこともあります。従って、婦人科だけでなく泌尿器科でも取り扱われることの多い疾患です。良性(命にかかわるものではい)ではありますが、QOL(生活の質)への影響が大きい疾患です。
根本的治療は手術による修復です。女性ホルモン補充やペッサリー挿入などの手術以外の方法もありますが、効果は低いといわれています。手術の方法には種々のものがありますが、簡便で効果が高い方法として、我が国では経腟的に(膣からの操作で)人工的なメッシュを埋め込んで支えとする方法(TVM;Tensio-free Vaginal Mesh)が広く行われて来ました。しかし、この方法はメッシュに関連する合併症の多さから欧米では行われなくなり、日本でも(日本では合併症の頻度は低いものの)行いにくくなっています。
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9.尿失禁(尿漏れ)について | |
1.切迫性尿失禁 1)切迫性尿失禁とは ▲専用の針とメッシュ ▲手術のイメージ |
10.過活動膀胱について | |
過活動膀胱(Overactive Bladder, OAB):頻尿・尿失禁に対する新しい概念 |